ソフトバンクグループ(9984)に対する現在のコンセンサスは至ってシンプルだ。Armというエンジンが回り、円安が追い風となり、投資ポートフォリオがついに息を吹き返した、というもの。日経平均株価が5万2,000円台の安値圏から一時5万9,513円近辺まで上昇する過程で、同社もその波に乗り、株探のデータを見れば東証の売買代金ランキングで首位に立ち、単日で3.93%の上昇を記録するほどの勢いを見せている。物語は実にうまくできている。回復、モメンタム、そして再評価(リレーティング)。この筋書きは、これまで何度も見てきたものだ。
だが、そのストーリーが肝心な部分を飛ばしていることには気づかなければならない。2025年3月期のフリー・キャッシュフローはマイナス1兆4,279億円に対し、営業キャッシュフローはわずか2,035億円に過ぎない。ソフトバンクの損益計算書を、外観は完璧にリノベーションされた豪邸に例えてみよう。見た目は華やかだが、配管は長年メンテナンスされていないような状態だ。株探のデータによれば、2026年3月期第3四半期累計の純利益3兆1,726億円は確かに目を引く数字だが、その大部分は時価評価による含み益であり、実際に銀行口座に振り込まれた現金ではない。市場がキャッシュの所在を問うことなくこれほどの利益急増を祝う光景を見ると、以前の苦い経験が頭をよぎり、どうにも落ち着かない気分になる。
円安が追い風であることは紛れもない事実であり、それを否定するつもりはない。円安はArmホールディングスやビジョン・ファンドが保有する資産のドル建て価値を自動的に円換算で膨らませるため、業績の見栄えが極めて良くなる。東証によるコーポレートガバナンス改革も構造的な追い風として機能し、海外勢の大型日本株買いがこうした銘柄のリスクプレミアムを押し下げている。これらは現実の力だ。しかし、この通貨トレードの「裏側」が見落とされている。ソフトバンクは巨額のグローバル債務を抱えており、円安はヘッジされていない外貨建て負債の返済コストを実質的に押し上げる。資産価値を押し上げるのと同じ為替レートが、静かに負債サイドを圧迫しているのだ。通貨の追い風など、終わる時までは永遠のように感じられるものだ。
Yahooファイナンスのコモディティデータで銅価格が6.068ドルという水準にあることにも注目すべきだ。銅は世界的な産業活動やデータセンター建設の先行指標であり、この水準はArmのIPライセンスが直結するハイパフォーマンス・コンピューティング(HPC)インフラへの需要が構造的に堅調であることを示唆している。一つの指標で全てを語るつもりはないが、ハードウェアサイクルが健全であれば、Armのロイヤリティやライセンス収入には確固たる下支えがある。これこそが、同社の強気論の中で唯一、真に持続性があると思える部分だ。
自分自身の仮定を疑ってみることも必要だろう。というのも、強気派への逆張りバイアス自体が、自分を陥れる罠になりかねないからだ。2026年3月期第3四半期累計EPSの553.5円は、2025年3月期通期の195.2円と比較すれば、単なる資産インフレを超えた収益力の加速を示唆している。もしArmの半導体サイクルへのエクスポージャーが積み上がり、グループが非中核資産の売却をうまく進めれば、営業キャッシュフローの姿は私が考えるよりも早く正常化するかもしれない。2026年5月13日に予定されている2026年3月期通期の決算発表は、その正常化が現実のものなのか、それとも単に「営業利益という衣を着た時価評価の物語」が続いているだけなのかを見極める、最初のまともな試金石となるだろう。
バリュエーションについては、市場のコンセンサスが最も安心感を抱いている一方で、私にとっては最も居心地の悪い部分だ。株価5,424円は、Yahooファイナンスが報じるアナリストの平均目標株価5,375.61円をわずかに上回っている。目標株価のレンジは7,570円から3,100円までと幅広い。Armを核とする持株会社としてPBR 1.98倍は法外ではないし、ROE 10.15%という数字は純資産の信憑性を高めている。ただし、実績PERは現時点で「計算不可能」な状態だ。利益の変動が激しすぎて、まともな実績倍率が存在しない。こうした曖昧さは通常、サイクルの方向に沿って解消されるものであり、逆行することはない。もし半導体サイクルが冷え込み、ビジョン・ファンドの評価額が下方修正されれば、PERには下値を支える根拠は何もない。
もし5月の決算発表で営業キャッシュフローが明確なプラスへと転じ、フリー・キャッシュフローが損益分岐点に向かって改善していれば、私の懐疑論は誤りであり、市場の再評価ストーリーには本物の持続力があるということになる。それが私の「撤回条件」であり、注視しているポイントだ。それまでの間、同社の株価はベストシナリオに基づくフェアバリューで取引されている。つまり、市場はすでに「実現すらしていない楽観論」に対する代金を、皆さんに前払いで請求しているということだ。
私はこれまで、多くの投資持株会社がサイクルを巡る中で、「公表利益」と「実際の現金創出力」の間に乖離が生じ、そこから思わぬサプライズが生まれるのを見てきた。そして、その結末が喜ばしいものだった試しは、ほとんどない。
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